医療機関の労務相談
「医師国保より社会保険に入りたい」
従業員からそう言われたら?
医療機関の労務を担当していると、健康保険についての相談を受けることがあります。
「うちのスタッフが、医師国保ではなく社会保険(協会けんぽ)に入りたいと言っているんですが、どうすればいいですか?」
実は、この質問には「そもそもの原則」から整理しないと、正確に答えられません。今日は、医師国保と協会けんぽの関係から、それぞれのメリット・デメリットまでをお伝えします。
THE RULE
そもそも、原則は協会けんぽです
法人のクリニックや医療機関が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するのは、法律上の義務です。そして、健康保険の原則は協会けんぽ(全国健康保険協会)への加入です。
では、なぜ多くのクリニックが医師国保に加入しているのでしょうか。それは、「被保険者適用除外承認申請書」という届け出を出すことで、法人であっても医師国保に引き続き加入することが認められているからです。
つまり、原則=協会けんぽ、例外=医師国保。長年の慣習や事業主の負担面から、法人化後も引き続き医師国保を使うクリニックが多いのが実情ですが、順番としては逆です。
GOOD NEWS
協会けんぽへの変更はできます
従業員が「医師国保ではなく協会けんぽに入りたい」と希望した場合、対応は可能です。適用除外の承認を受けずに(または取り消して)、協会けんぽへ加入する手続きを進めます。
ただし、事業所全体の保険をどう設計するかにも関わってくるため、事業主と従業員双方でよく確認してから進めることが大切です。
COMPARISON
協会けんぽと医師国保、
何が違うの?
それぞれのメリット・デメリットを整理します。
全国健康保険協会(協会けんぽ)
メリット
傷病手当金・出産手当金がある。病気や出産で働けない期間の収入保障があります
扶養家族を追加保険料なしで加入できる。配偶者や子どもを被扶養者にできます
低収入の方は保険料が低くなる。保険料は標準報酬月額に基づくため、収入が低いほど負担が軽い
デメリット
高収入の方は保険料が高くなる。収入に応じて保険料が上がるため、高収入の医師ほど負担が大きい
事業主の保険料負担が発生する。保険料の半額を事業主が負担します
医師国民健康保険組合
メリット
保険料が定額。収入にかかわらず一定額のため、高収入の医師ほど有利になります
事業主の保険料折半負担がない。組合によって異なりますが、基本的に事業主の費用負担が少なくなります
デメリット
育児休業中の保険料免除がない。協会けんぽなら育休中は保険料が免除されますが、医師国保にはその仕組みがありません。子育て世代のスタッフには大きなデメリットになります
傷病手当金・出産手当金がない。組合によって独自給付がある場合もありますが、協会けんぽと同等の保障はありません
扶養家族も保険料が発生する。家族を加入させる際に、1人ずつ保険料がかかります
低収入の方は保険料負担が重くなる場合がある。定額のため、収入が低いスタッフには割高に感じられることがあります
REAL TENSION
現場で起きていること——
従業員と事業主、それぞれの本音
医師国保をめぐって、スタッフ側と事業主側で温度差が生じるケースがあります。
従業員側の声
特に声が上がりやすいのが、育休中の保険料免除がないという点です。
協会けんぽ(社会保険)であれば、育児休業中は本人分・事業主分ともに健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。ところが、医師国保にはこの免除制度がありません。育休中も保険料を払い続けなければならず、子育て世代や扶養家族が多いスタッフから不満の声が上がることがありました。
事業主側の事情
一方で、事業主側はなかなか切り替えに踏み切れないのが実情です。
長年、医師国保でやってきた慣習があること。そして何より、協会けんぽに切り替えると事業主の保険料負担が新たに発生すること。スタッフ全員分の保険料の半額を事業主が負担するのは、特に小規模クリニックにとって小さくない影響です。
「スタッフのためには変えてあげたい、でも経営への影響も無視できない」——この板挟みに悩む事業主さんの姿も、よく見てきました。どちらの気持ちも、もっともだと思います。
TAKEAWAY
どちらがいいかは、人によって違います
高収入で扶養家族がいない医師には医師国保が有利なケースが多く、給与水準が高くない事務・看護スタッフには協会けんぽのほうが保障面で充実していることが多いです。
「社会保険に入りたい」という声が出たときは、その従業員がなぜそう感じているのかを丁寧に聞くことが大切です。傷病手当金への不安なのか、扶養の問題なのか——理由によって、最適な対応が変わります。
医師国保と協会けんぽ、どちらを選ぶにしても、なぜその選択をするのかを事業主とスタッフ双方が理解していることが、長く安定した職場運営につながります。
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